( 2007/04/22 )
凸住宅地西側の土塁跡
美里町に遺されている平地の城館跡のなかでは僅かに遺構の存在を期待できる個所。
昭和61年に刊行された「美里町史」によれば、明確な土塁と堀跡の存在が記されているのであります。然しもうすでに20年以上前の刊行物であることから、編纂作業の年数を考慮すれば四半世紀以前の情報に過ぎないということも厳粛な事実。
事前に集めた資料を参考にして、JR八高線の小さな松久駅の駅舎を右手に見てそのまま西側へと車を走らせると水田地帯の中に目当ての住宅地が出現。住宅地手前の道路左側になにやら文化財の説明版が所在していたので一瞬期待を。残念ながら木部氏および城館跡に関するものではなく、地元に縁のある和算学者の方の顕彰碑なのでありました。あの見事な堀切や郭が遺されている猪俣城でさえも、格別の説明板などがないことから至極当然のことなのかも。
さて肝心の遺構については「美里町史」の記述どおりに、東側の堀跡と途中で分断された西側土塁の一部を確認に成功。ともかくもこの日ようやく始めて目にした土塁状地形に率直に感激。館跡の規模自体は古代の条里制の規模に沿った丁度一町四方余りの方形館の大きさ。尤もその後の戦国期における館としての役割の変化にともなうもの、あるいは後北条氏の滅亡後に帰農したと考えられる近世有力農民階層の屋敷構に伴う遺構というような印象も拭い去れなくもないような。しかしそうした時代背景は別にして、現実に宅地化が進行している平地の城館跡において土塁状の遺構を拝見できるとは殆んど期待していなかったということもあり全く予想外の収穫ではありました。なお南側と西側の用水路および堀跡地形については、近年の道路建設などに伴う埋め立てにより最早その存在を確認することは叶わず仕舞いに。
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館址の西側に一部残されている高さ1m、長さ20mほどの土塁跡
( 2007/04/22 撮影 ) |
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凸1 木部氏館址−東側からの遠望
この道路に続く南側の舗装された道路にも以前には用水路が流れるなど、かつての堀跡の名残としての景観が残されていた模様なのであります。 しかし現存する遺構は上記の西側に存在する2か所ほどの土塁状地形と画像「3」の用水路へと転じた堀跡のみのようです。
なお、「古館」との小字名が残されている地域は、この画像の八高線の踏切を超えた右側に所在しているようです。
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凸2 館址とは無関係の文化財説明板
生憎館址とは直接関係の無い地元出身の幕末期の関流和算学者・指導者であった小林喜左衛門良匡とその顕彰碑などに関する説明板。
尤もこうした地方における学術の振興、基礎学力の普及という背景が、明治以降の我が国の急速な近代化を成し遂げるべき人材を輩出する原動力となっていったのでありましょう。
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凸3 東側の堀跡らしき用水路
正面に見える美里町の遺跡の森公園の所在する比高差25mほどの通称木部山と呼ばれている丘陵地帯を水源とする小河川。この小川がそのまま館址東側の堀跡・用水路の役割を兼ねていたものと思われます。
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凸4 西側の堀跡と思しき道路
「美里町史 通史編」の記述ではこの西側の北部にも堀跡とみられる地形が残されていたと記されています。しかし何分にも20年以上も前の事ゆえ、現在はコンクリートの蓋が設置されたU字溝の存在がその証と見る以外には手だてがありませんでした。なお上記の土塁状の遺構はこの道路の先の右側に所在しています。
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・JR八高線松久駅から北西に直線で約250mに所在する住宅地
・いつもガイド の案内図です
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凸地誌類・史書・古文書などの記述
■新編武蔵風土記稿
那賀郡木部村の項には木部氏およびその館址に関する記述はありません。
■武蔵志
同上
(=一部の表現を現代文風に変更=)
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凸主な参考資料
「埼玉の中世城館跡」(1988/埼玉県教育委員会)・「関東地方の中世城館」2埼玉・千葉」(2000/東洋書林)
「中世北武蔵の城」(梅沢太久夫 著 2003/岩田書院刊)・「新編武蔵風土記稿」(1996/雄山閣)
「武蔵国郡村史」(1954/埼玉県)・「角川日本地名大辞典11埼玉県」(1980/角川書店)
「埼玉県史 資料編10近世1地誌」(1979/埼玉県)より「武蔵志」「武蔵演路」など
「埼玉県史 資料編7中世3記録1」(1985/埼玉県)
「美里町史 通史編」(1986/美里町)
「埼玉県史 別編4年表・系図」(1991/埼玉県)・「武蔵国児玉郡誌」(1992/春秋社−1927刊行の復刻本)
「武蔵武士」(1971/有峰新社−1913/渡辺世祐、八代国治共著/博文館刊の復刻本)
「武蔵の武士団」(1984/安田 元久 著/有隣堂)横山党以外の武蔵七党の存在について懐疑的な見解を明示
「埼玉郷土辞典」(1966/埼玉新聞社)・「日本史広辞典」(1997/山川出版社)
・2007/10/15 HPアップ
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