入間川御所　中世城館　城跡　城址　埼玉　武蔵

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入間川御所

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　2005 /02/11の日記　柏原城（城山砦）　義貞砦　

おすすめ評価

訪城季節３　遺構状態１　探し易さ４　交通利便５　体力消耗５　歴史経緯３　総合２１

所在地

埼玉県狭山市

歴史と沿革

■足利基氏は足利尊氏の四男として暦応３年(1340年)に生まれ、10歳の時叔父の直義の養子となり嫡子義詮に代わり鎌倉公方となった。その後、観応元年(1350年)の観応の擾乱を契機とする南朝方の新田氏などの攻勢の前に鎌倉から一時退去したが、足利側の勝利により鎌倉を再び手中に収め、尊氏は文和２年(1353)14歳の基氏を鎌倉防衛の戦略拠点である入間川に下向させた。
　「鎌倉九代後記」の記述では、このとき従った軍勢は３万６千余騎とのことであるが、これは些か誇張が過ぎているものの、多くの武士たちが従ったことは確かであろう。そして「市史通史編１」(以下「市史」)によれば、基氏は上野に拠点を置く南朝方の新田氏の動向を監視する役割を以後康安２年(1362年)まで、９年以上の長きにわたりその任務を全うすることとなる。この間、延文２年(1358年)には基氏の執事畠山国清が竹沢右京亮らに命じて新田義興を多摩川の矢口の渡しで謀殺している。(「太平記」)

■ 入間川御所と入間川殿
　近世に入ってから最終的に成立したと考えられている「鎌倉九代後記」によれば足利基氏の居館が入間川沿いに在ったことから基氏が「入間川殿」と呼ばれたという。そして「市史」によれば、関東の管領である鎌倉殿（鎌倉公方）の居館であることから、「入間川御所」と呼ばれているということである。なお、「鎌倉殿」との呼称については貞和４年（1348年）の時期にすでに足利尊氏が嫡子義詮を鎌倉殿と呼んでいるとし、また文和４年（1355年）足利義詮御教書案では、将軍義詮が鎌倉にいる基氏を鎌倉殿と呼んでいる（覚園寺文書、佐々木家文書）ことなどの事情については「市史　中世資料編」に詳しい。
　また同書は、徳林寺の境内地のみを基氏の居館として捉え「入間川城」と称することについては婉曲な疑問を投げかけ、徳林寺説、黒須説、柏原説、入間川祇園説などの諸説を包含する形で複数の出城を含む大規模な陣営(城)のあったことを示唆している。また、さらに「市史」では「鎌倉九代後記」の記述などから、より端的に狭義の基氏の居館を徳林寺から中央図書館周辺とし、広義の入間川御所である足利方の陣営全体が、それらの諸説を含む広範な地域に広がっていたであろうことを推察している。
　しかし、それらの推論を裏付けるような記録の類は殆ど残されておらず、「新編武蔵風土記稿」でも柏原村の「義貞砦」の個所で伝承として述べているに過ぎないし、義貞の伝承に比べてあまりにも基氏に関するものが少ない。想像するに、足利基氏の在陣時期が新田義貞の活躍の時期と然程ずれていないことにより、近世の時代に入り太平記に記述された義貞の輝かしい活躍期の事蹟と基氏の在陣とが、次第に混同されていった可能性も考えられるのではないだろうか。

確認できる遺構

土塁、空掘

構造的特徴および
周辺の地理的特徴

■入間川右岸(下流に向かって右側)の洪積台地上を中心に展開していたと考えられており、狭義の入間川御所つまり基氏の居館は中央図書館と徳林寺付近であり、この地域を中心に足利方は黒須の大将陣、入間川祇園の殿山、八幡神社付近、更に対岸の柏原御所の内(義貞砦)、柏原城(城山砦)等に広く布陣していたものと「市史」では推察している。

参考資料、古文書、
記録

「中世北武蔵の城」（梅沢太久夫　著　2003/岩田書院刊)
「埼玉県史　通史編２中世」（1988年/埼玉県編集発行）
「埼玉県史　資料編中世4記録2」(1986年/埼玉県編集発行)
「狭山の散歩道--歴史と風物」（広沢謙一　著　1975年/21世紀書房）
「狭山史談第５号」（埼玉郷土文化狭山支部編集発行）
「入間川町誌」（1960年/入間川町誌刊行委員会）
「狭山市史　通史編Ⅰ」（1996年/狭山市編集発行）
「狭山市史　中世資料編」（1982/狭山市編集発行）
「仏像がよくわかる本」（1998年/瓜生中著/ＰＨＰ文庫）
「民間信仰辞典」（1980年/桜井徳太郎編/東京堂出版）
「地形で読みとく合戦史」（2003年/谷口研語著/ＰＨＰ新書）　　　　

文化財指定

無

訪城年月日

2005/02/11

訪城の記録

（　2005/02/11　）
■台地上からは入間川の対岸がよく見通せます
　足利尊氏の第四子、鎌倉公方足利基氏が少年時代から九年もの間、居館とした入間川御所の所在地についての候補地は概ね四ヶ所あるとのことです。「市史」ではそのなかで、「根曲輪」「三の輪」「柵の内」などの城郭に関する地名の残ることなどから、市内の市立図書館（旧市役所）と西隣の徳林寺境内をほぼ断定的に推定しています。また、そのほかの候補地についても、これと関係する出城などがおかれた可能性を示唆しています。
　そういうわけで、徳林寺とその南西にある八幡神社さらに市立図書館にも立寄って、その高台から入間川の対岸を眺望すると確かに現在でもよく見渡すことができました。天気がよければ鎌倉街道を進む南朝方の軍勢さえも肉眼で捉えることは可能だったと思われます。「狭山市史」の推定どおり狭義の基氏の入間川御所は、やはりこの辺りで間違いがなさそうです。

Ｂｅｓｔ　Ｓｈｏｔ？

　足利基氏の居館である入間川御所が置かれたと考えられている徳林寺の山門と交通安全にご利益のあるというお地蔵様。
　(　2005/02/11　撮影　晴　)

交通アクセス

・西武新宿線狭山市駅より徒歩５分MapFan Web の案内図です　

（　2005/02/11　撮影　）

■入間川御殿など中世の時代に関する説明版などは現地にはないようで、これは近世の絹本に描かれた仏画の説明版。
　「狭山市史」では徳林寺の境内が入間川御殿であるとのことについて、かなり断定的な表現をしています。しかし説明版ということになると、入間川御殿の「有力な候補地の一つ」というようなわけにも行かないのでしょう。

■曹洞宗徳林寺の本堂。手前の丸太のようなものは鐘楼の櫓の一部です。明治初期に編纂された「武蔵国郡村誌」の記述によれば天文二年（1533年）に当山開基の僧存松が亡くなっていることから、16世紀初頭前後に開山されたと推定されます
　また、「同誌」や「新編武蔵風土記稿」の記述によると、「元弘３年（1333年）新田義貞陣せし所なりと」、「元弘３年武蔵野合戦の時、新田義貞本陣として逗留せし所なり」との言い伝えもあり、中世の歴史とのかかわりの深い場所のようです。

■徳林寺本堂脇の武蔵野三十三観音十七番札所の案内板。城跡として他に撮影すべきものも少なく、単にキャラクターが可愛いので撮影しただけのことで．．．．(^^;

■徳林寺の南西約300ｍの同じ入間川の崖線上に所在する八幡神社には、後述のように新田義貞にかかわる伝承が多く残されています。その境内社には疱神社（疱瘡神）、高良神社、大鷲神社、御嶽山（御岳講）、甚兵エ大権現など様々な民間信仰も含めた神様たちが合祀されています。このほかに「金毘羅さま」、「神明社」（たぶん）なども祀られています。

■狭山市指定文化財の建造物「八幡神社」本殿で、祭神はいわずと知れた誉田別尊（応神天皇）と大日霊尊、天津児屋根尊。狭山市内で中世に創建されたと推定される由緒のある神社は１４か所あるそうですが、その一つがこの八幡神社で、「新編武蔵風土記稿」の記述では元弘３年（1333年）に新田義貞が北条氏の鎌倉幕府を攻めるときに源氏の守護神として勧請したとされています。
　しかし「市史」によれば、「戦勝を祈願して守護神である八幡大菩薩の神像を奉納し、新田の八幡宮と称されるようになった」という八幡神社所蔵の縁起を紹介しています。
　また、「武蔵国郡村誌」によれば「社地中に老枯松あり。正慶元年（正慶２年の誤りか）久米川の役に新田義貞当社に詣で馬を繋ぎしを以って駒繋松と称す」などの伝承もあり、いずれにしても新田義貞とのゆかりの深い神社であることには違いないようです。

■大正十二年の八幡神社旧本殿移築時に出土したという室町時代の製作と推定される埼玉県指定文化財「さわりの壷」。
　説明版のとおり「さわり（砂波利）」とは銅にに錫・鉛を加えた合金で黄白色で、たたくとよい音がするとのことで、建物建立などの地鎮に際し鎮物を埋納する容器として使用されたとのことです。
　新田義貞、足利基氏などとのかかわりもありそうな感じもしますが、今となっては想像をめぐらすのみで委細不明です。
　なお、狭山市のホームページではその在陣期間の長さなどから足利基氏との関係を示唆しています。

■八幡神社脇の崖を斜めに横切る急坂。比高約１０ｍぐらいはあります。
　この八幡神社自体も入間川御殿を含む出城などの関連施設が置かれた可能性が推定される地形です。

■狭山市立中央図書館の駐車場から入間川対岸の北西方面を望む。確かに現在でもその眺望はすばらしい。手前の大屋根は徳林寺の本堂など。


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